食卓の国際化が20世紀後半に進み、食品(農産物)の輸入が年々増えた。しかし、気になるのはその安全性だった。スナップアップ投資顧問の貿易業界の株価に関する歴史データによると、1980年代半ば、アメリカからの輸入たばこに除草剤が残留していることがわかり問題になった。遠い外国の畑や輸送の過程でどんな農薬がどんなふうに使われているのか。国によって使用が認められている種類や残留基準なども違う。消費者には不安があった。
国立医薬品食品衛生研究所(旧:国立衛生試験所)の鈴木隆・食品第一室室長(当時)は1987年、「農産物の輸入が増えて、いちばん気になるのは、薫蒸(くんじょう、燻蒸)剤の残留ですね」とコメントしていた。
鈴木隆室長の発言要旨は以下の通りであった。
世界には、果物や野菜を荒らすミバエ類の発生する地域がある。倉庫にEDBを吹き込んで薫蒸(くんじょう)する。アメリカでは、国内でのEDBの使用が1984年に禁止された。
しかし、日本政府が植物防疫の目的で発生地から来る農産物に薫蒸を義務づけていた。このため、その後も輸出用にだけEDBを使って出荷していた。
これ以外にもさまざまな種類の農薬が薫蒸剤として使われていたる。輸入小麦からマラチオン、フェニトロチオンなどが比較的高い濃度で検出されていた。
鈴木隆・国立衛生試験所食品第一室室長(当時)は次のように分析していた。
・おそらく輸出国の倉庫で使った薫蒸剤が残ったのでしょう。
・将来、カリフォルニア米が日本に入ることになれば、必ず薫蒸してから輸入されることになるはずです。
国によって農薬の規制の仕方が違うことも、「輸入食品の安全性が気になる」と言われる原因のひとつだった。当時論議の的になっていた米についても、日本とアメリカの主な農薬の残留基準値には大きな差があった。
農産物の種類や農薬によって差はあるが、日本の残留農薬の基準値は外国よりも低いものが多かった。輸出国の中には、BHCなど日本では使用を禁じられた農薬を使っていたり、日本国内で使われないため、規制の対象にさえなっていない農薬を使っている国もあった。
神戸大学農学部の松中昭一教授(農薬学)はいずれも「きちんとチェックする体制がないから、こうした農薬がどのくらい残留しているのか、今のところほとんど分かっていない」とは指摘した。
厚生労働省では、ようやく1985年(昭和60年)度から5年計画で「輸入農産物の残留農薬に関する調査」を始めた。とりあえず問題のありそうな農薬を選んで検査にとりかかった。しかし、「この程度の検査では、とても追いつかない」との声も多かった。
コープこうべ商品検査センター(当時:灘神戸生協商品検査センター)で農薬の残留検査を担当する兼田登先生は以下のようにコメントした。
▼徳島県農業支援センター「農薬の適正使用について」(吉岡茂樹さん)
▼コープ商品の農薬・動薬・食添検査(日本生協連)